果物はなんでも好きですが、ちょうど今が旬の伊予柑には特別な思いがあります。
以前にも書きましたが、大学に入った年の冬に風邪をこじらせてウイルス性脳炎になり生死の境をさまよったことがあります。
その時、付き添って看病してくれたのは、体があまり丈夫でなかった母ではなく父でした。
入院して10日ほどで意識が戻ったのですが、その時まず目に入ったのが真っ白な天井、真っ白な壁と窓の外の真っ白な雪景色、そしてベッドのわきに座っていた父でした。
自分がどこにいるのか、なぜベッドに横たわっているのか、なぜここに父がいるのか事態が呑み込めずに辺りを見回していると、窓辺に置かれた伊予柑に目が止まりました。
気づいた父が、「食べるか?」と言って皮をむいて食べさせてくれました。
部屋中が伊予柑の匂いでいっぱいになり、食べやすいように丁寧に薄皮までむいてくれた実はジューシーでとても美味しく感じました。
意識が戻った直後は、脳の機能が低下していて記憶も途切れ途切れなのですが、この時の伊予柑の匂いと味は鮮明に覚えています。
その後、1か月半ほどで無事に退院し、後遺症もなく現在に至っているわけですが、今でも毎年伊予柑を手にするとその時のことを思い出し、こうして元気に過ごせていることの有難さ、仕事を休んでずっと付き添ってくれた父への感謝の念など様々な思いがよぎります。
せっかく助かったこの命を粗末にせず、精一杯頑張ろうという気持ちになります